第一章 葬儀 

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   通夜の席は(あつし)一人だった。  弔問客は絶えていた。  淳は凝った首や肩を回し、周囲を見回した。祭壇は明るく献花は華やかで、斎場は静まり返っていた。  秋一(しゅういち)が現れ、祭壇の線香の残り具合を確かめてから、淳の隣のパイプ椅子に座った。 「疲れたな」 「疲れた」  親たちの葬儀だった。  昨日、車で出勤途中の事故。助手席にいた秋一の母阿耶は即死、運転していた淳の父康宏も日付が変わる直前に死んだ。  淳は祭壇を見上げた。パスポートの写真を使った父の遺影は硬い無表情、秋一が選んだ阿耶の写真は、輪郭が曖昧だが阿耶が明るく微笑んでいる。  父の遺体が収められた棺と阿耶の白い骨包みは、アンバランスな印象にならないように配置を考慮されていた。  葬儀の前に火葬を済ませるという秋一の決断に頷いた記憶はあるが、病院での秋一との会話は断片しか覚えてない。「先に帰る。また来る」と秋一が言ったのは、阿耶を「見ないでくれた方がいい」と言われた後か先か。  父はじきに死ぬと納得させられて茫然としているうちに時間は過ぎた。 「もう誰も来ないんじゃないか」 「引き上げるか」
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