第一章 葬儀 

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 斎場を出ると廊下を挟んで「親族控室」の張り紙がされた引き戸がある。中は八畳ほどの和室で、座卓が据えられ、通夜振舞いの席が設けられていた。 「何か飲むもの残ってる?」  秋一がグラスを捜している。淳も捜そうとしたが、テーブルに手をついた途端、腰が痛んだ。 「痛たたた……」 「大丈夫か」 「昨日から座り通しだから」  淳はゆっくり腰を下ろし膝を立てて座った。 「ビールしかない」 「ビールでいい」  ぬるいビールを一口飲んで、淳はふうっとため息をつく。秋一は手酌でついだビールを飲み干した。 「明日は十一時からだよな」 「その前にここ片付けないと」 「うん。香典も、今晩中に確認した方がいいって言われた」 「後にすれば。疲れてるだろ」 「それはお互い様」  淳はそう言い、黒いスーツ姿の秋一を見た。  秋一に疎外感を抱かせたのでは、淳は気になっている。喪主は淳が務めた。秋一が嫌がり、淳が半年年長で十七歳になっているから、そんな理由で決まったことだが、葬儀社の社員や参列者が秋一にほとんど話しかけていないように見えた。制服ではなくスーツを着ればよかったかと思ったが、参列者の混乱が増すのは目に見えている。  再婚同士。夫婦になって約一年半。同い年の連れ子。取り違えてバツの悪そうな顔には軽く会釈し、囁きは聴こえてないふりをした。  それが明日もう一回ある。
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