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――そして今は、私こそが支配者側に立ったの…!
ただ――一つだけ。望んだ通りにならなかったこと。
それは、裕人のことだ。社内で何度もすれ違った彼は、私の姿や態度を見るたび――一切悔しがる様子を見せず。驚いて、どこか憐れむような眼でこちらを見るようになったのである。私は整形で生まれ変わったことになっている。整形美人を非難する人間は多いが、彼もそのクチだったということだろうか。
なによ、と思う。みんな私が整形だろうがなんだろうが美しくなってチヤホヤしてくれるのに、何でそんな小さなことで私を見下して馬鹿にしようとするのよ、と。
「ほら、ちょっとそこのブス!何やってんのよ、さっさと片付けなさいよ!!」
私は八つ当たり気味に、すぐ近くで転んでファイルをぶちまけた新入社員の女性を罵倒した。新入社員の中でも一番気弱で、地味で、能力がなかった彼女。先輩の言葉に、“すみません!”と泣きそうな声で答えて、慌てて資料を拾い集めている。当然、私は手伝ってやったりもしない。今の私には、そんな必要などないからだ。
ああ、なんて“こちら側”は爽快なんだろう。
――もう誰も、私を見下したりなんかしない、させないんだから…!!
必ず、裕人のことだってぎゃふんと言わせてやる。そう思って私が裕人の隙を探っていた、ある日のことである。
私が仕事を終えて定時で帰る頃。一階の食堂で、何やら裕人が女子社員と話し込んでいるのを見かけたのだ。私は嫌な気分になった。いつものアレだ。社員はまた泣いている。裕人はどれだけの女の子に手を出して泣かせれば気が済むのだろうか――そう思って、こっそり近くに座り話を盗み聞きしてみると。
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