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「…ありがとう、よく話してくれたね……」
「…すみません。私の要領が悪いだけって、それはよく分かっているんですけど…」
「そんなことはないんだよ。みんな得意な仕事と苦手な仕事はあるし。…君の場合、一つのことに集中するのは得意みたいだし…データ入力メインの事務仕事に替れるかどうか、ちょっと上と交渉してみるよ」
「…すみません…本当にすみません。ありがとうございます、深山さん…」
深山、というのは裕人の苗字だ。まさか、と私は思った。まさか彼が泣いている女の子達と話していたというのは全て――女子社員達の仕事の相談に乗っていたとか、そういうオチだったのだろうか?確かに今は、入ってきたばかりの新入社員が仕事に慣れるか慣れないかという時期で、研修も多く人事部は非常に忙しいはずだが――。
「深山の奴…もうタイムカード切ったのに、本当に真面目だよなあ」
すると、近くから同じ様子を見ていたのだろう、人事部らしき男性社員達の声が聞こえてきた。
「人事部としてほっとけないっていうのは分かるけど。サービス残業してでも、新人の子達の面倒見たり相談乗ったりしてるんだからすごいよな…」
「真面目だし、絶対怒鳴ったりしないもんな。下手な女の先輩より相談しやすいから、女子社員達がこぞって話を訊いて貰いにくるんだよなあ。おかげですごい誤解されまくっててるって…」
「まあなあ。…仕事ばっかで、女の子と遊ぶ暇なんか全然ない状況なのにな。優秀だし頼れるけど、もうちょっと休んで欲しいもんだよ…」
嘘、と思った。
じゃあ、まさか自分が、自分が今まで見ていたものは。
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