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「さようなら。今まで、ありがとうね」
彼は私に、一切の言い訳も、謝罪も許してはくれなかった。
ああ、と私は膝から崩れ落ちた。私は大切なことが、何一つ見えていなかったのである。そして、本当は彼のことを愛していた自分も――彼がまだ私を愛していたことにも気づかなかった。不細工で、地味で、根暗だった私を――それでも彼が愛してくれていた、本当の理由にも。
私は慌てて家に帰った。もう一度サトヤと交渉しようと本を探したが――確かに購入したはずのそれは、家をどうひっくり返しても見つけることができなかった。あの古書店も。まるで夢か幻でも見ていたように。
あの日捨てたもの。それは、私が幸福に見合うほどに、大きなものだったのだ。何で今更気がついたのだろう。
『……ふうん、わかった。いいだろう、釣り合うっちゃ釣り合うなあ』
だってサトヤは言ったのだ。
私が捨てるものは、私の願いと釣り合うものなのだと。
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