さびしん病

8/13
前へ
/13ページ
次へ
ガラリと通信室のドアを開けると、中には「老いた大人」であるクオン先生が座っていた。 他には誰もいない。 この学校の先生は、クオン先生唯ひとりなのである。 それも当然だ。 この国に「若い大人」は絶滅状態だったからだ。 ぼくが生まれる前に起こった世界大戦が原因だった。 2つの大国から波及した戦乱で、この国の「若い大人」が極端に減少した。 それで日本は「老いた大人」と、ぼくら子どもしか残っていないのだ。 それが結果的に良かったのか、子どもが政治に介入したことによって、この国は理想郷となった。 賄賂や汚職のない政治が、この国から不当な差別や格差を払拭したのだ。 この日本は、ぼくら子どもの国だった。 「ようこそ、マモルくん」 クオン先生が微笑んだ。 老婆特有の疲れた笑みで。 「クオン先生、アイリちゃんが病気になりました」 「そう、それを言いに来たのね。でもね、それは病気じゃないのよ」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加