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「さびしん病は病気じゃないの?」
「大戦の前にはね、当たり前にあったものなのよ」
そう答える先生の背後には、棚いっぱいに紙の本が並んでいた。
ぼくは紙の本を見たことがない。
ぼくの時代、情報はすべてデジタル通信で入手できる。
紙の情報媒体なんて無用の長物なのだ。
「それは国の条例で禁書あつかいになっている、紙の本ですよね?」
「そうよ。わたしはね、昔は絵本作家だったの。これは知識の財産なの。この国の継承すべき精神なのよ」
クオン先生が並んでいる本をペラペラとめくって見せた。
淡い彩色のページがめくられて、さながら蝶の舞いみたいにはためいていた。
「もしかしたら先生は宿題通信で……。それは国を滅ぼす違法な行為ですよ」
「優しいきみの口から、そんな言葉が聞けるなんてね」
「宿題通信のデータに違法な情報を潜伏させたのですか?」
「文明は文化を駆逐する。この国から大事な伝統が滅ぼされるの。その前に子どもたちに継承しないと──」
「先生! それはいけないことです」
ぼくは叫んだ。
それが合図となったのか、いきなりドアが開いた。
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