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大嫌い
「…ツムギ、もう大丈夫。ありがとう…」
「全然大丈夫そうに見えないけど。カナタ、ずっと我慢し続けるのやめなよ。たまには本当のこと打ち明けていいんだよ?」
「本当に大丈夫だって…ツムギ、ありがとな。」
「う、うん…。今、親御さんに連絡入れに行ってもらったから今日はもう、ゆっくり休んで。」
「ありがとう…」
ツムギと、こんな他愛もない会話をしている時に俺の脳裏の隅には、さっきの翼の言葉が残っている。医者が言った通り、もう翼の余命は残りわずかなのだろうか?そんなの嫌だ。もっと一緒にいたい…失いたくない…。そんなことを思っていると父さんが迎えに来た。
「一弥っ!大丈夫か!?」
「…え?う、うん……」
「よかった。とりあえず今日は帰るぞ。すみません、ご迷惑おかけしました。」
父さんはツムギに頭を下げた。
「いいんですよ、健康第一ですから。お大事にね、カナタ。」
「ありがとう…」
そして俺は父さんと一緒に家に帰った。
次の日、熱が昨日よりも上がってベッドから起き上がれなくなった。
「一弥。悪いんだけど、父さんも母さんも仕事だから家に残れないの…一人で大丈夫?」
「大丈夫…そんなに心配しなくても…」
「だって、一弥が熱出したらまともに立てないし、かなりの高熱になるから。」
「大丈夫だから…気にしないで…いってらっしゃい…」
「……いってきます。」
母さんは不安げな顔をしたまま家を出た。それにしても、かなりしんどい…。こんな中、一人で大丈夫だろうか?体もだるくてふらふらしたので、そのまま眠ることにした。
「……ん…」
目が覚めて時計を見ると、夕方の4時に時計が回っていた。こんな時間まで眠っていたのか…。さすがにお腹空いたな…。そう思いながら階段を降りて、台所に行く。すると、台所から何かを作っている音が聞こえてきた。母さんは…まだこの時間帯には帰ってこない。父さんも同様。じゃあ…誰?そう思いながら台所をそーっと見ると、翼が何かを作っていた。
「…翼?」
「あ、一弥っ!具合はどう?」
「まぁ…良くなってきたけど…翼、何で?入院してたはずじゃ……」
「調子戻ってきたから昨日退院したんだ。でも学校に行ったら今日、一弥休みだって聞いて……」
「…そっか…わざわざ来てくれたんだね…ありがとう。」
「だって恋人が辛い時には傍にいてあげたいじゃん!」
そう言って満面の笑みを浮かべる翼を見て、失いたくないと改めて思った。
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