第十八章 迷宮奇譚 三

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 自分の尻が性的対象になるなど、天変地異が起きたようなショックであった。雪矢は、ちゃんと立ち直れるのだろうか。 『市来、人の事よりも、自分の事も考えるよ……』 「明海もね」  和泉と武智が成仏したので、明海と今後の事を話し合いたい。俺が母屋に入ってゆくと、ゾロゾロと人も付いてきていた。俺は、明海と二人で話したいので、母屋の土間を突き抜けて、更に庭を通り越した。 「どこに行くの、市来?」 「明海と話してきます」  庭を通り越した時に、皆が母屋に帰っていったので、俺は納屋に走り込む。そして、納屋の自室に入ると、戸を閉めた。 「明海……明海も二人と一緒に成仏したかったでしょ?」 『何だ、深刻そうな顔をしていたと思ったら、そんな事を心配していたのか……』  成仏というのは、そんな事で括られていいものだろうか。でも、明海が猫のままで笑っていた。  猫も笑えるというのを、俺は初めて知った。 『この若い菩薩様を残して、成仏できなくなったよ……しかも、同じ死保とできているのでしょ?驚きだよ』  明海は、俺が武智と寝ようとしなかったのは、近くに恋人がいるからだと気付いたらしい。それに、明海の前でも新梧はいちゃついていたので、しっかりバレている。 『俺は唯一、菩薩様も治癒できる能力を持つ。死保に言われなくても、一緒にいてやるよ』  明海は、俺の手を舐めていた。 『でもな……俺は心は舐められない……』  和泉も武智も、この明海の舐める性質を受け継ぎ、何でも舐める習慣がついた。舐めるということは、癒しであったようだ。  明海が俺の頬も舐めていて、気付くと俺は泣いていた。花園は死を選んでしまい、和泉と武智は、普通の幸せを知らないまま逝ってしまった。 『しかし……瀬谷というのは、誰でもいいのかな?』  瀬谷は、必死に桜本を口説いていたが、あっさり雪矢と寝ている。 「研究者というのは、そんな面があるのですよ」  俺も瀬谷の切り替えの早さに驚かされるが、生きている者同士で安心している面もある。 「あ、帰還命令が出ました」  明海が死保に行く決意をしたので、仕事が終了となったらしい。  ここは田舎で区切られた土地というのが少ないので、織田のように、自分の家の周辺に道を作っておこう。 「死保に戻ります。部屋で会えるといいですね」
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