第一章 闇夜の烏(カラス)は黒いのか? 

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 四畳半の和室には、中央に炬燵があり、ペンを持ったまま眠っている倉田が、今日も座っていた。倉田の正面には、胡坐をかいて興梠(こうろぎ)が座り、ぶつぶつと数字を呟いていた。  この部屋は、死保(死保留中探索調査委員会)で、倉田は部屋ごと死保に来てしまった、珍しい人であった。  死保、【死保留中探索調査委員会】は、死んでいる者、もしくは、死に近しい状態の者で、自分が死んだ(もしくは、その状態に陥った)原因を知らない者が来る場所となっている。死保にはチームがあり、それぞれに仕事がやってくる、倉田はここのチームの受付兼記録係及び報告係であった。  この部屋から、外部に連絡できるのは、眠っている倉田だけで、俺達は倉田の書き出す文字を読んで情報を得ている。  人は、何故死に至ったのか知らないと、次のステップに行けないらしい。そこで、死保が留まってしまった、理由や原因を調査していた。  死保の仕組みは全く分からないのだが、俺達は仕事があると外に出る事ができ、自分の死因もしくは、何故、留まってしまったのか理解すると、次のステップの成仏に移行する。  しかし、死保のメンバーは、自分の死因を自分で調べようとすると警告が出て、警告を無視すると消滅してしまう。  他に、仕事を達成できなくても消滅するし、仕事をしなくても消滅してしまうらしい。  死保の中は、本来は音が無いのだが、今はせわしなく動く興梠が、カチカチと音を立てていた。  興梠は電卓で計算すると固まり、今度はソロバンで計算をしてから唸り、又、電卓で計算していた。俺が興梠のノートを覗こうとすると、興梠の手に捕まって、カーテンに向かって投げられていた。 「市来。邪魔!」  部屋が四畳半と狭いので、死保のメンバーは仕事が無い時は、押し入れに格納されている。しかし、俺は押し入れに入る事ができなかったので、小型化して部屋に留まっていた。 「興梠さん。痛いですよ!」  俺の身長は二十センチメートルほどで、容易に掴んで投げられる大きさなのだ。俺は、カーテンを滑り降りると、再び炬燵に登り始める。すると、興梠が又、俺を投げ捨てていた。  今度は、部屋にある小さな流しの方向であったので、流石に危険だと思って身構えると、いつの間にか倉田の半纏のポケットに入っていた。
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