そこにいたのは

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 ざわざわと騒がしい外の喧騒と、冷えきり重苦しい空気が支配する室内で僕は目を覚ました。  ただ、そこにあるのは真っ暗な闇と空っぽな空間のみ。  頬を濡らしている液体を拭いながら僕はベッドから起き上がり、彼女の元へと向かう。  綺麗な黒髪を持つ女の子が満面の笑顔のまま、その瞬間を切り取った一枚の写真が飾られている場所へと。 「…………どうして……」  僕のたった一人の大事な人。……大事だった人。  今では夢でしか会うことが出来なくなってしまった僕の最愛の人。  瞳を閉じて、意識を手放して。そうすることでしか彼女には会えない。  何度も繰り返して、彼女と言葉を交わして……ただ幸せな時間を夢見て。  でも目を覚ましたら、そこには絶望と虚無感だけが存在している。 「……もう一度、君に会いたいだけなんだ」  偽りじゃない、覚めても壊れることのない世界でもう一度。
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