そこにいたのは

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 ふわふわとした心地よい浮遊感と、柔らかく吹き抜ける爽やかな風に暖かな小鳥たちのさえずり。  穏やかな気持ちで僕は閉じていた瞼を開け、まだ明るさに慣れない瞳を瞬きながら少しずつ頭をすっきりさせていく。  ようやく意識がはっきりとした所で、僕のすぐ近くにいたある人に気づいた。 「……やっと起きた」  そう言った声の主は、とても綺麗な黒髪を持つ女の子。くすくすと笑いながら彼女は僕を見上げる。  笑っているはずなのに、その瞳はどこか物憂げで寂しさを感じさせるものだった。 「……今日はどこへ行く?」  そう問いかけた彼女の顔は既に完全な笑顔に戻っていて先程瞳の中に見えた揺らぎは微塵もなくなっていた。  そんな彼女の様子に、僕はあえて触れずこの時間を過ごす。何も気づかなかったかのように僕は振る舞う。  ――だって、気づいてはいけないから。  僕と彼女は歩き出す。小さな花の咲く丘の上からどこか見覚えのある橋へと景色は移った。  ついさっきまで明るく照らしていたはずの太陽は今日の役目を終えて地平線へと沈もうとしている。  ゆっくりと、宵闇が僕らを取り囲んでいく。  それに比例するように彼女の姿もどんどんぼやけて見えなくなる。 「……待って、消えないで!」  慌てて伸ばした手は彼女に触れることなく空を切った。
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