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第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く
プロロ~グ
12月、26日。
毎日を静かに過ごす寡黙(ことなし)神主は、早朝より神社の境内の掃除を行っていた。 狭い敷地に雪が積もり、地蔵達の雪を払い落とすだけで一時間は使った。 吐く息が薄暗い中では白くみえず。 煙る影の様である。
然し、朝の7時を回ると。
「え゙ぇ~、こんな所に神社が在ったのぉ?」
若い女性の声がする。
「此処、穴場だけどご利益が有るんだってさ」
制服にコートを羽織る女子高生達が、迷い混んだかの様にやって来た。
鳥居前に立つ寡黙神主で。
「ようこそ、烏神(とがみ)神社へ」
以前からたまに来ていた女子高生が、3人の友達を連れて来たのだ。
「トガミ神社・・」
「御神体が、鳥の神様なんだって」
「へぇー」
「鳥の神様・・って?」
「天皇様を導いた“ヤタガラス”と、“朱雀”って云う神様」
「ゔわ、有名な神様じゃんっ! ゲームによく出てくるヤツっ」
“箸が転んでも可笑しい年頃”と云う感じか、きゃっきゃした感じの彼女達は、健康や念願成就の為に御守りや小さい破魔矢まで買う。
これから試験に向けた補習授業に出る彼女達は、寡黙神主へ挨拶をして去って行く。
最近、烏神神社に人が訪れる様になった。 悲しいのは、その要因を作ったのが広縞だと云うこと。 広縞が亡くなる前に己の悪行が祟り、殺害した女性の怨念に取り憑かれてしまった。 怨念に祟られた彼の変貌は、周囲の人から見ても明らかに解る奇行を見せていた。 また、それに加えて、被害者遺族が奇っ怪な不審死を遂げたことが、更にオカルトな噂を生んだ。
広縞が死ぬ直前に、この神社より御札を馬鹿みたいに購入し、部屋にベタベタと貼っていたことが週刊誌やネットのニュースに載った。 厄除けや邪気払いに効くと噂が流れ、神社を訪れたネットニュースの記事を書く者が神社の案内を載せたのだ。 “導き”のご利益も有ると噂が流れ、こうして今では学生が訪れるのだが。 慰霊や鎮魂の為か、中には不動産関係や事故や事件に係わる人も来る様に…。
そんな事実を自然体で受け止める寡黙神主では在るのだが…。 雲行きの良くない朝の空を見上げる彼は。
(木葉さん、貴方だけが広縞の気配を強く鋭く感じられるのか。 私は、貴方の様に動けない。 あの変貌した広縞を、貴方はどうする気なのか。 私には、何か…)
事件に関わり凡てを知った故に、胸の内に渦巻く歯痒い想いを彼は抱えていた。
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