プロローグ

1/5
1398人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ

プロローグ

 ────十六年前。  かつての栄華は失いつつあったものの、それでも世間一般から見れば充分すぎるほどに裕福な東條(とうじょう)家に、二人目の子供が生まれた。  ────いや、「生まれた」というのは、少し語弊があるかも知れない。  何故なら、その子供は父であり東條家の当主でもある東條聡一郎(そういちろう)が、妻ではない女性との間に授かった子供だったからだ。  東條の家は、かつては多くの子会社を有する有名企業の代表を務めてきたが、なかなか跡取りに恵まれず、おまけに子会社の経営不振も重なって、名家としての窮地に立たされていた。  実際、東條の直系に当たるのは聡一郎の妻である香夏子(かなこ)一人だけであり、聡一郎は婿養子として、半ば強引に縁組されたようなものだった。その香夏子との間に授かったのも、長女の千夏(ちか)のみで、聡一郎は肩身の狭い思いをしてきた。    そんな聡一郎が、不徳と心得ながらもとある一人の女性に心を惹かれたのは、二年前、職場の人間に誘われて渋々立ち寄った高級クラブでのことだった。  相手は、その店のホステスとして働いていたΩの女性。     
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!