第六話

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 GPSが示している柚斗の居場所はここからほど近い場所のはずだが、実際に来てみると、見渡す限り、やはりごくごく普通の閑静な住宅街だった。  特別目を惹くような豪邸があるわけでも無ければ、目立った店舗などもない。唯一目につくものがあるとすれば、辛うじて車がすれ違えるほどの通りの先に見える、学校のグラウンドくらいだ。  車に乗っている間は、本当にこの辺りに柚斗が居るのだろうかと疑念を抱いた龍哉だったが、携帯を頼りに進むにつれ、柚斗の存在は次第に明確なものへと変わっていった。  ……雨の中でも、αの龍哉にはハッキリとわかる。発情期のΩが放つフェロモン特有の、甘くて蠱惑的な匂いが、辺りに漂っていた。 (もしかして、発情期が来たから東條家から逃げ出した……?)  余程の理由が無い限り、柚斗が自ら蔵を抜けて東條家から逃げ出すとは思えない。逆にそれほどの行動を柚斗に起こさせる『何か』があったのだとしたら、それはΩ特有の発情期くらいしか、龍哉には思い当たらなかった。  だがそうだとしたら、屋敷を出た柚斗の動きがピタリと止まった理由が気にかかる。卓巳も気にしていたが、外の世界を知らずに育った柚斗に土地勘などあるはずもないし、逃げ出した先に行く当てがあるとも思えない。何より発情したΩが無闇に外を出歩くなんて、柚斗でなくても相当危険な行為だ。     
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