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万が一の事態に備えて以前から龍哉の携帯には柚斗の携帯番号が登録してあるが、柚斗の携帯には卓巳の番号しか登録されていない。東條家の人間に気付かれた場合、龍哉の関与が疑われないようにと、卓巳が頑なに登録させなかった。
知らない番号からの電話に、柚斗が出てくれるだろうか。そもそも、柚斗は今、電話に出ることが出来るのだろうか。
一か八かの賭けだったが、龍哉は暫し迷った末、意を決して通話ボタンを押した。
何度も何度も、呼び出し音が繰り返しスピーカーから響いてくる。
頼むから出てくれと、祈る思いで龍哉はひたすら待ち続ける。……そうして一分ほど経っただろうか。溜息を零した龍哉が切断ボタンを押そうとした直前、プツ、と呼び出し音が途切れた。
『……はい……』
苦しげな呼吸に混ざって、不安に揺れる弱々しい声が返ってきた。きっと柚斗は発情期の辛さと闘っているのだろうが、一先ず彼が電話に応答出来る状況にあることに、龍哉はホッと安堵の息を吐いた。
「もしもし、柚斗くん?」
『え……誰、ですか……?』
いきなり名前を呼ばれた柚斗が、少し驚いた声を上げる。そう言えば、龍哉はずっと卓巳と情報を共有してきたので、自分もすっかり柚斗の知り合いのような気になっていたが、柚斗はそもそも龍哉の存在すら知らないのだ。
「ああ……ごめん、僕とは『初めまして』だよね。僕は、西園寺龍哉」
『さい、おんじ……?』
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