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龍哉の姓に反応して、柚斗が電話越しに息を詰める。
「西園寺卓巳の、弟だよ」
『卓巳さんの……? どうして……卓巳さんに、何か、あったんですか……?』
何かあったのはむしろ柚斗のはずなのに、息も切れ切れに卓巳の身を案じる必死なその声を聞いて、卓巳がどうして柚斗を助け出したいと思ったのか、改めてわかった気がした。
龍哉は兄には恵まれていたけれど、柚斗のような弟も欲しかったと、胸の内で密かに思う。
「兄さんなら大丈夫だから安心して。ただ、今はちょっと仕事中だから、代わりに僕が来たんだ」
『あの……俺、今は蔵には────』
「知ってる。今、アパートの部屋に居るよね?」
『……どうして、わかるんですか……?』
「ちょっと宝の地図があるから。ちなみに今、柚斗くんの傍には誰か居るの?」
龍哉の問いに、少しの間を置いて、柚斗から『はい』と返事が返ってきた。
『……知らない女の人に、助けて貰ってます』
「知らない女の人?」
『はい……髪の長い、綺麗な人です』
その瞬間、龍哉の脳裏に、東條邸の前で出会ったΩの女性の姿が浮かぶ。
「……もしかして、黒髪で目の大きな人?」
『そうです……龍哉さんの、知ってる人なんですか……?』
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