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階段を上がってすぐの扉の前で足を止めた龍哉が、「……いや」と少し眉を顰めながらガチャリと鍵を開けた。
「────兄さんはβだよ」
扉を引き開けながら、龍哉は苦い表情で呟く。その顔はまるで、卓巳がβであることを認めたくないという風に、柚斗の目には映った。
αだとか、βだとか、Ωだとか、柚斗には第二の性がどんな意味を持つのかわからない。
柚斗を助けてくれた女性も、柚斗がΩだとわかったとき、何故か謝っていたけれど、βやΩだと何かいけないのだろうか。そんなことを考える柚斗の背後で、静かに扉が閉まる。
まだ卓巳が帰ってきていない、シン…と静まり返った部屋の明かりを龍哉が点けると、コップや食器が置きっぱなしのテーブルと、椅子の背凭れに適当に引っ掛けられた衣服がまず目に留まった。よく見ると、床にもタオルやTシャツが畳まれていない状態で放置されている。
柚斗の知らない卓巳の姿が、垣間見えた気がした。
「あーあ、たった数日でもう散らかってる」
室内を軽く見渡して龍哉が呆れた声を上げたが、柚斗は室内に踏み込むことを思わず躊躇った。足を止めた柚斗の顔を、龍哉が「どうしたの」と心配そうに覗き込んでくる。
「……俺、本当にここへ来て、良かったんですか……?」
「良かったも何も……兄さんから直々に頼まれてるんだよ?」
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