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「この通り、兄さんは放っておくとすぐに部屋を散らかすし、君に出会うまでは、しょっちゅう夜遅く────酷いときは朝まで遊び歩いてるような人だったんだ。だけど偶然君に出会ってからは、僕が何度注意しても止めなかった夜遊びも一切しなくなって、本当に毎日毎日、君のことばかり考えてた。あんなにも何かに必死になってる兄さんは、それこそ僕も初めて見たくらい」
部屋を片付ける龍哉の口から、知らなかった卓巳の素顔が語られて、柚斗は黙って耳を傾ける。
世間どころか、自分自身のことすらろくに知らない柚斗と違って、卓巳は何でも出来て何でも知っている、ヒーローみたいな人だと思っていた。けれど実際はそんなことはなく、むしろ柚斗よりも片付けが下手だったりすることを知って、少しだけ卓巳に近付けたような気がする。
それに何より、卓巳に出会って以来、柚斗がずっと卓巳のことを想い続けていたように、卓巳もまた柚斗を想ってくれていたことに、嬉しさで胸が詰まった。
一通り床に散らばった物を掻き集めた龍哉が、それらを抱えたまま、ゆっくりと柚斗を振り返る。
「……だから兄さんも僕も、君が居てくれて良かったって、思ってるんだよ」
柚斗に向けられる龍哉の笑顔が、初めて柚斗の頬に触れてくれた卓巳の笑顔と重なる。無性に卓巳のことが恋しくなって、会いたくて、柚斗は涙が溢れそうになる目元を咄嗟に腕で覆った。
そんな柚斗の心中を察したように、龍哉が困ったように苦笑する。
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