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「さっき兄さんから、『今から帰る』って僕の携帯にメッセージが来てたから、多分じきに帰ってくると思う。僕が同じ部屋に居ると辛いだろうし、正直僕にとっても君の『匂い』は結構キツイから、兄さんが帰るまで向こうのダイニングに居るよ。何かあったら声掛けて。……君の携帯は、ここに置いておくね」
柚斗の携帯を枕元に置いて、龍哉は少し苦しげな息を零しながら、静かに部屋を出て行った。
卓巳も龍哉も、柚斗を助けてくれた女性も、柚斗は悪くないと言ってくれたけれど、それならどうして皆、柚斗の前で苦しそうな顔をするのだろう。もしも柚斗がΩではなかったら、何か違っていたのだろうか。
出るはずのない答えを、上手く働かない頭で探し求めていると、不意に扉の向こうからバタンと大きな音がして、続けざまに慌てた様子の卓巳の声がした。
漸く会える、と思った途端、柚斗の全身がドクドクと脈打ち始める。何やら龍哉と遣り取りしているようだったけれど、煩い動悸が鼓膜まで突き破りそうな勢いで響いていて、よく聞き取れない。
早く……早く……!、と柚斗の本能が卓巳を求める。
「柚斗!!」
心の声に応えるように部屋へと飛び込んできた卓巳が、ベッドに横たわる柚斗を見るなり、力強く抱き締めてくれた。
ずっと求めていた温もりに、柚斗の心と身体から、堪えていた悦びが一気に溢れ出す。
もう関わらない、関わってはいけないと、あれだけ自分に言い聞かせていたのに、欲求が抑えきれずに卓巳の背に腕を伸ばしてしまう。
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