第八話

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 父に似ている、なんて言われたのは初めてで、卓巳は反応に困って軽く項を擦る。家柄なんて関係のない相手からは、龍馬と卓巳も至って普通の親子に見えるのだろうか。 「書類は全て、確認させて頂きました。今、スタッフがあの子を呼びに行ってるので、もう少しお待ち下さいね」  卓巳が持参した封筒を軽く掲げて見せる施設長に、卓巳は「あの……」と躊躇いがちに口を開いた。 「……柚斗は、此処に居る間、元気にしてましたか?」  卓巳の問い掛けに一瞬目を瞬かせた施設長は、安心したように目尻の皺を深めた。 「良かった、あの子の引き受け先に、貴方のような人が居てくれて。……あの子は、育った環境も複雑だったようだから、この施設にも馴染めないみたいで。スタッフもなるべく気に掛けるようにしていたけれど、いつも一人で本を読んでばかりだったから、私もずっと心配だったんです」  子供たちの輪から外れ、ポツンと一人で読書に耽る柚斗の姿が目に浮かぶようで、卓巳の胸に苦い痛みが広がる。  狭い蔵の中とはいえ、幼い頃からずっと一人で過ごしてきた柚斗が、ある日突然知らない場所で、知らない相手と過ごせと言われても、当然戸惑いの方が強いだろう。 「此処に迎えた子は皆、過ごした時間の長さに関係なく、自分の子供も同然だと私は思っているんです。……だから西園寺さん。あの子のこと、よろしくお願いします」     
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