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施設長に深々と頭を下げられ、卓巳は身体を九十度折り曲げて、それに応えた。
「もう二度と、柚斗を一人にはしません」
力強く誓った卓巳の声に続くようにして、突然ガチャリと応接室の扉が開いた。顔を見せたのは、先ほど卓巳が封筒を託した男性スタッフだった。
「こら悠。ノックくらいしなさいっていつも言ってるでしょう」
「あ、忘れてた」
スンマセン、と悪びれない様子で卓巳にペコリと頭を下げた彼が「こっちだぞ」と扉の外へ声を掛ける。その声に促されるように、俯きがちにおずおずと部屋へ入ってきたのは、髪がバッサリとミディアムショートに切り整えられ、すっかり少年らしくなった柚斗だった。
「柚斗……」
やっと会えた、という思いからその名を呟いた卓巳の声を聞いて、驚いたように柚斗が伏せていた顔を上げる。卓巳の姿を見るなり、柚斗の大きな黒目が、零れそうなほど見開かれた。
「卓巳さん…────どうして……? 卓巳さんのお父さんが、迎えに来るんじゃ……」
今にも泣き出しそうに震える声で問い掛けてくる柚斗に、卓巳は意地悪く苦笑する。
「親父の方が良かったか?」
「………っ!」
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