第四話

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 窓の周囲には、鉄格子の根本が棘のように残っていたが、それらも大して力を入れなくとも、触れればパラパラと崩れて地面へと落ちていき、蔵の裏に面した窓は、これまでと一転して開放的になった。  今までは鉄格子が邪魔で出来なかったが、柚斗は恐る恐る、窓から軽く上半身を乗り出してみる。  一番の難関だった鉄格子は取り除くことが出来たものの、窓から見下ろした地面は小柄な柚斗には相当遠く見え、初めて感じる高さに本能的に足が竦んだ。  こんな高さから、一体どうやって下まで降りれば良いのだろう。  窓からそろりと手を差し出してみると、少し暑いくらいの陽の光が柚斗の腕へと降り注いでくる。その温かさもとても心地良いものに思えたけれど、同時に柚斗は、二週間前に初めて感じた、もっと心地良い温もりを思い出していた。  鉄格子を壊す為に差し入れを届けてくれた卓巳が、力強く握ってくれた手の感触。それを思い返しながら、空中に差し出した掌を、柚斗はそっと握り込む。  人の手があんなに温かいなんて、初めて知った。卓巳が初めて教えてくれた。  誰も関わろうとはせず、こちらからも関わることを禁じられている柚斗の手を握ってくれたのは、卓巳だけだ。父親にすら、あんな風に手を握って貰った記憶はない。 『人と触れ合う』────物語の中では当たり前のように書かれていることなのに、柚斗はそんなことすら経験したことがなかった。     
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