第二話

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第二話

「どうしよう……」  最早、食べようとしていた夕食のことなどすっかり忘れて、柚斗はズルズルと扉脇の壁に背を預けて座り込んだ。  この蔵へ来て、もう何年経つのかわからない。わからないけれど、今日初めて、ずっと守ってきた決まりを思いきり破ってしまった。  最初は、言葉を交わすつもりなんかなかった。  ただ、いつもより賑やかな外の様子や、滅多に人が来ない庭の東屋に見えた人影が気になっただけだった。  東屋の外灯の明かりに照らされた二つの人影はピタリと寄り添っていて、時折読む小説に出てくる恋人同士みたいな雰囲気だった。……といっても状況が小説の描写と似ていたから何となくそう思っただけで、実際の恋人同士というものが具体的にどういう関係のことを言うのか、柚斗にはわからないのだけれど。  そんな恋人みたいな雰囲気を醸し出していたかと思えば、一体何があったのか、突然破裂音のような乾いた音が響いたと思ったら、女性が何やら感情的に怒鳴る声がしたものだから、柚斗はその光景から目を離すことが出来なかった。     
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