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時は少し流れて、幼稚園年長の時。友達とおままごと遊びをしていた時。あまりに衝撃的なその出来事は、私の心に大きな傷を残した。
私はお母さん役、友達は子供役。元々おままごとが苦手な私は友達に「ママの真似をすればいいんだよ」とアドバイスされて、それに従った。
「言う事聞かないなら家から出ていきなさい」
「ママ?」
「ほら、早く外に行きなさい。言う事聞かない子なんてママの子供じゃないわ。ほら、出てって!」
「え?」
「あなたにあげるご飯はありません。言う事聞かない子はお家にいなくて結構よ。ほら、とっとと出ていく!」
私はお母さんに言われたことを、仕草や声音まで真似た。ただそれだけだ。言われた通りに真似をしたのに、周りの子供の反応がおかしくなった。
何故か友達は号泣して遊んでいた部屋から出ていって。戻って来た時には先生を連れてきていた。先生が般若みたいに怖い顔をしていたのは覚えてる。
友達が泣きながら先生に訴える。先生は友達の言葉を聞くと私のところにやってきた。
「なんでそんなひどい事言うの?」
「お母さん役だから――」
「早く謝りなさい。言っていいことと悪いことがあるでしょう?」
おままごとでお母さん役だから、自分のお母さんの真似をした。そう説明しようとしたのに先生は私の話を全く聞いてくれなくて。友達も泣き止まなくて。
何が「ひどい事」なのかわからなかった。だって私は、いつもお母さんに言われてることを真似しただけ。じゃあ私は、お母さんに「ひどい事」を言われているの?
私は話を聞いてもらえないことに泣きながら友達の元に歩み寄る。先生が怖い顔をして「『ごめんなさい』は?」と聞いてくる。謝るしかないんだって、幼いながらに理解した。
「もう、出て行けなんて言わないから。もう外に行けなんて言わないから」
そう言いながらもなんで先生が怒るのか理解出来なかった。お母さんの真似をしただけなのに怒られる意味がわからなくて。お母さんの真似はしちゃいけないんだってことだけ、強く胸に刻みつけた。
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