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母親は何でも自分が正しいと思っているタイプ。常に誰かを見下さずにはいられない。きっとそうやって人を傷つけることでしか自分のプライドを保てない、プライドの高いタイプなんだと思う。
一度そう本人に言ったら図星だったらしく、酷く激怒した。抓ったり叩いたり暴れた挙句「お父さんには言っちゃダメだからね」と何度も念押しされたのは記憶に新しい。
そんな母親の家庭内教育が始まったのは幼稚園年中くらいだと思う。気がつけば私は母親に勉強を教わっていて。その時間が苦痛で仕方なかった。
「途中式を書きなさいって言ってるでしょ?」
「お母さんの本当の子供ならこれくらいの問題、解けるでしょう?」
「なんで言われたことができないの!」
「あんたには勉強しか取り柄がないんだから」
「間違えてるじゃない」
「勉強しない子にはご飯無しだから」
「なんでこんなテストで満点も取れないの? 最低でも九十点は取りなさいよ」
勉強を教えている時の母親はそう言いながら私の皮膚を抓る。太ももや手に噛み付くこともあった。蹴られる時も叩かれる時もあった。刃物の切っ先を向けられたり熱湯をかけられたりすることもある。
ズボンや上衣の下はいつだって傷だらけ。ミミズ腫れ、人の歯型、青アザ。最初はどこの家もそういうもんだと思ってた。違うんだって知ってからは、何度も自分に言い聞かせるようになった。
『虐待されてる子より辛くない』
『まだ、殺されない』
『しつけだから仕方ない』
『私が全部悪い。私が謝ればいいんだ』
母親曰く、それは『しつけ』で『教育』。勉強を教えていない時も、母親が「私が悪いことをした」と思った時はそうやって『しつけ』をしていた。私はそれが普通なんだと思っていた。
教育が落ち着いたのは小学校六年生辺りだった気がする。驚くほどあっさりとした終わり方だった。
「占い師さんが、私と渚ちゃんの相性は良くないって言ったのよ」
「親子としてはいいけど生徒と教師としては最悪、らしいわ」
「確かに私と渚ちゃん、全然タイプ違うものね」
後日聞かされた教育を止めた理由はなんとも単純で。占い師に相性が良くないと言われただけで、呆気なく人を切り捨てる人。話を聞いた時はそんな印象を母親に抱いたのを覚えてる。
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