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「……あーあ。あれ、高かったのに」
午前八時。誰もが朝日に目を覚ます、生者の時間。
惜しむように呟けば、すぐさま鋭い視線が飛んできた。怖い怖い。
「そんなこと言う人には朝食はあげません」
「死ぬの止めたのだから、ご飯くれないと死んじゃうじゃない」
「……それ、日本語おかしくありません?」
「餓死はきれいじゃないから嫌なの」
美味しそうな匂いが近づいてくる。泣き黒子が特徴的な少年はテキパキと慣れた手つきで目の前に朝食の支度を整えてくれる。夜遅くまで起きていたからお腹はぺこぺこだ。
「ありがたく、いただきます」
手を合わせて丁寧に感謝を述べても、少年の眉間のシワはまだ健在である。
「僕はまだ怒ってるんですからね」
「最近のお前は大体怒っているわ」
「誰のせいですか!」
温かいスープを飲み、パンをかじる。
「部屋は花びらで散らかすし。あれ片付けるの大変だったんですからね。大体薔薇の花びらに黒いドレスってベタにも程があるでしょう。古風な魔女ぶってどうするんですか。あんなの着てるの初めて見ましたよ」
周りを浮遊する妖精たちも美味しそうな匂いに集まってくる。少年は文句を言いながらもそんな妖精たちにパンの欠片やスープを分けてあげる。
「たまには趣向を凝らすのもいいかと思って」
「気軽に色々な死に方試すのやめてください」
「いつも邪魔されるんだもの」
「当たり前でしょう!師匠が死んだら、誰が僕に魔法を教えてくれるんですか」
可愛い怒り顔の弟子に、至らぬ師匠は微笑みを返すことしか出来なかった。
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