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レオは森の中で拾った子供だった。
小さくて、今にもどこかに拐われそうな、儚い命。言葉も話さず、じっと私の目を見た。子供を育てたことも弟子を取ったこともなく、妖精たちとひっそり暮らしていた私にとって、その目は今まで見たことのない光を灯していた。
私はその小さな命をレオと名付けた。百獣の王の名前を。その命が強く育つようにと。
「師匠ー。お茶にしますかー?」
工房の入り口にレオがひょこりと顔を出した。
「うん。一息つこうかな」
「今日は何してたんですか?」
「永遠の眠りにつく薬作り」
「わー。最悪ですね」
手塩にかけて育てたのに、最近ではすぐに悪態をつくようになってしまった。まったく、誰に似たのだか。
「いいですか?何度も言いますけどね」
場所を変えて、中庭。草花に囲まれた中でのティータイム。
レオは身を乗り出して言う。
「僕は今の生活が好きなんです。師匠とのこの生活が。だからそんな急いで来世の自分とバトンタッチなんてやめてください」
「可愛い可愛い年下の私に、早く会いたくないの?」
レオは私と過ごすことで、魔力の影響を受けている。魔力も日々増してきている。すでにその時の流れは魔女と同じものだ。
「だ、だからっ」
レオは俯く。その顔はほんのり赤い。
「僕は!ロリより年増が好きなんです!だから!師匠にロリになられたら困るんですよ!いたっ」
気がついた時には頭をべしっと叩いていた。
「誰が年増だ」
魔女に対して。年増とは。なんて失礼な。
「そんな失礼な子に育てた覚えはないぞ」
「じゃあ躾直してください」
怒りの眼差しを、レオは引くことなく正面から受け止める。この子はたまにこういう目をする。私が育てたのに、私に出来ないような真っ直ぐな目を。
「死なないでください」
未来を見てから、何度言われただろう。
私があの手この手で死のうとする度に、何度阻止されただろう。
もう生きることにはそんなに執着はないのだ。魔女として、長い長い時を生きた。それが、可愛い弟子のために死ねるとなれば、こんなにいい幕引きはない。ようやく、私は死ぬ理由を得たのだ。コーネリアのように。
なのに、死ぬなと言う。
まだ生きてくれと言う。
森で拾った子供は、必死に私の命の灯火を守ろうとする。
「困ったな……」
どうして、まだ世界にさよならすることは出来ないらしい。
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