月光

　今日は十五夜だ。
　一年で一番、月が綺麗に見える日。

　だけど月は見えない。
　仕方ない。先に本殿でお参りしよっと。

　鈴を小さく鳴らして、二礼、二拍手、一礼。

　神様、お願い。
　世界中のみんなが幸せに過ごせるようにしてください。

　わたしの願い事は、それだけです。
　シンプルだけど、無茶ぶりなお願い事だよね。
　いつも我儘ばかり言って、ごめんなさい……。

　わたしはお参りを終えると、ふっとひと息吐いた。
　さっきまで短かったわたしの呼吸が、ようやくいつもどおりの長さに戻ってきたみたいだ。
　わたしは振り返り、本殿に背を向けて、神社の展望台へと向かった。

　するとその時、わたしの横を強い風がすーっと追い越していった。

　あれ。今、誰か先に展望台へ行っちゃったかな？
　わたしはその風を追いかけるように、展望台へたどり着いた。