月光

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月光

 あ、また雲に隠れちゃった……  わたしは、神社の展望台から今晩の月を拝もうと、鳥居へと続く階段を一段一段昇っていた。  この階段、こんな急いでる日に限って、ものすごく長く感じる。長く感じれば感じるほど、それと同時に疲れも感じてしまう。まだ階段の中腹くらいなのに、私の息は途切れ途切れになっていることに気づいてしまった。  こんなことをしている間にも、月はその姿を現したり、隠れてしまったりを繰り返している。  あともう少し。――あの展望台から見える月はやっぱり格別だから。  わたしはそんなことを想いながら、少しだけ小走りで階段を駆け上がっている。  神社の境内にある展望台からは、市内が一望できるほど見晴らしが良い。  わたしは何かあると、よくここにひとりで来て考え事をするんだ。週に数回は通っている。  もちろん本殿でお参りした後にここでぼおっとしてるんだから、文句言われる筋合いないよね。  ……もっともそのせいか、願い事が叶ったとか、そんなことを考えたことないけれど。  やっと着いた。階段を昇りきると、神社の鳥居がわたしを温かく迎えてくれた。『やっと昇ってこれたね』と声をかけてくれてるのかもしれないけど、そんなこと今日のわたしはどうでもいい。  だって、月を見に来たんだから。  だけど、まだ月は雲の中。正確には向こう側。  雲のやつ、じゃまだなー。  まぁ今日が特別な日だって、雲にはきっと関係ないもんね。だから仕方ないか。
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