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「もっとこそ泥みたいな真似をすればいいのに」
「嫌だよ。これ以上、固執されるのは御免だ」
妙に義理堅いままの少年を笑う。渋い表情をさせたが、知ったことか。
「貰っておけば明日の夜からも困らないでしょうに……」
茶封筒から取り出した紙幣の確認をする私にジルベールは「フッ」と唇を緩める。
「そうかもね」
椅子に腰掛けたまま、抱えた膝の上頬杖をつく姿がまたいやに絵になる。
「早く仕舞ったほうがいいよ」
そのことを誰よりもよく理解している本人が顔にかかった髪を耳にかける。小さな貝殻のような綺麗な形をしていた。
私が受け取った金銭を鞄の底に入れたことを認めると、少年はようやく立ち上がった。
以前と全く同じ様子で部屋のドアへ向かう。いつもこれと言って何らかの言葉を交わすことはなかった。――が、彼には迷いがあるらしい。
どこか不安そうな瞳とぶつかった。
私から、何か言ってやるべきだったのだろうか?
____今でも、よくわからない。
これが、私がジルベールを直接目にした最後である。
ファニーはもう無駄にホテルに宿泊することはなくなった。彼女は現在、自宅でストロベリー・フレーバーの紅茶を飲んでいた。
テレビには青い瞳の男が映っている。金色の髪をした青年だ。美しい……
生放送のトークショーの中で近頃は、娘とともに栽培キットで苺を育てているという。ファンからのプレゼントなのだと話している。
「僕も初めて知ったんですけど……苺って『成果を上げる』という花言葉があるらしいんです。あと『幸福な家庭』って」
彼は「なんか、いいなぁって」と穏やかに笑い、その柔和な笑みにこちらの表情も、ついほころんでしまった。
「厭な男ね」
Fin.
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