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はっきり言って誰もがあの金髪碧眼の美男子に気を取られていた。
前中央にあるステージには薄汚れた硬貨や折れた紙幣がばら撒かれている。
……誰だ? あいつ。
「女みたいな男だな」
「あぁ」
酒場の客であり、自身の客でもある男に頷いた。見ない顔だ。金髪碧眼の、実に分かりやすい美形……故意に伸ばされたであろう髪が、また一段と雰囲気がある。
こちらが顔を向けたことに気を良くした相手は手を重ね、しきりに指を絡めてきた。その手を「やめろよ」とかわし続ける。
ここは店じゃない。……が、それが気に障ったらしい。次の瞬間にセスの身体は引き倒されていた。
息が弾む。喉の奥が締まって苦しい。
「離……っせ!」
どうせなら強引に噛みついて男の舌を引き抜いてやりたかった――。
いつも……こうだ。
肌がひりつく。右頬には赤く腫れた擦り傷ができていた。妙に滲みるのは、夜風のせいだ。そう思うことにした。
酒場を出て、しゃがむわけにもいかず、転がるようにしてその場に倒れ込む。その直後だった。
「回されでもしたの……?」
大きく丸い月の、金色の光線が薄く差し込む。
夜空は男の半分の眼窩を暗い窪みにして、他方を黒く染めていて、月の光か街灯が彼を照らしたせいだろう、はっきりとした二重まぶたの線が一層深く濃くなった。
「随分と酷い目に遭ったみたいだね。大丈夫?」
まるで見計らったように声がかかる。
「……はっ……」
背丈はそう変わらない。むしろ相手の方が小さいくらいだ……そんな男に手を差し伸べられた。
「知ってる」
「うん、さっき目が合ったよね。僕のこと……じぃっと見てた」
仰向けに転がって身体を起こす力も残っちゃいない。おかげで相手には見下ろされたままになっている。
長い前髪で目元が見え隠れした。それでも、瞳の青さはよくわかる。密生した睫毛は髪よりもっとずっと薄い色をしていた。
「……………見てたのか……趣味悪ぃな」
助けろ。
そんなことを言うつもりは微塵もないが……あぁ、笑えてきた。
「てめぇも来りゃ相手くらいはしてやったけどな」
「――そうか。だったら、まず今夜の宿を提供してよ」
自分と年齢もそう変わらない男が、目の前で紙幣をちらつかせた――――……
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