Point of No Return -もう後には引けない-(番外編②)

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 はっきり言って誰もがあの金髪碧眼の美男子に気を取られていた。  前中央にあるステージには薄汚れた硬貨や折れた紙幣がばら撒かれている。  ……誰だ? あいつ。 「女みたいな男だな」 「あぁ」  酒場の客であり、自身の客でもある男に頷いた。見ない顔だ。金髪碧眼の、実に分かりやすい美形……故意に伸ばされたであろう髪が、また一段と雰囲気がある。  こちらが顔を向けたことに気を良くした相手は手を重ね、しきりに指を絡めてきた。その手を「やめろよ」とかわし続ける。  ここは店じゃない。……が、それが気に障ったらしい。次の瞬間にセスの身体は引き倒されていた。  息が弾む。喉の奥が締まって苦しい。 「離……っせ!」  どうせなら強引に噛みついて男の舌を引き抜いてやりたかった――。  いつも……こうだ。  肌がひりつく。右頬には赤く腫れた擦り傷ができていた。妙に()みるのは、夜風のせいだ。そう思うことにした。  酒場を出て、しゃがむわけにもいかず、転がるようにしてその場に倒れ込む。その直後だった。 「回されでもしたの……?」  大きく丸い月の、金色の光線が薄く差し込む。  夜空は男の半分の(がん)()を暗い(くぼ)みにして、他方を黒く染めていて、月の光か街灯が彼を照らしたせいだろう、はっきりとした二重まぶたの線が一層深く濃くなった。 「随分と酷い目に遭ったみたいだね。大丈夫?」  まるで見計らったように声がかかる。 「……はっ……」  背丈はそう変わらない。むしろ相手の方が小さいくらいだ……そんな男に手を差し伸べられた。 「知ってる」 「うん、さっき目が合ったよね。僕のこと……じぃっと見てた」  仰向けに転がって身体を起こす力も残っちゃいない。おかげで相手には見下ろされたままになっている。  長い前髪で目元が見え隠れした。それでも、瞳の青さはよくわかる。密生した睫毛は髪よりもっとずっと薄い色をしていた。 「……………見てたのか……趣味(わり)ぃな」  助けろ。  そんなことを言うつもりは()(じん)もないが……あぁ、笑えてきた。 「てめぇも来りゃ相手くらいはしてやったけどな」 「――そうか。だったら、まず今夜の宿を提供してよ」  自分と年齢もそう変わらない男が、目の前で紙幣をちらつかせた――――……
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