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ファニー・デイビスは自らが買い与えた携帯電話で少年と連絡を取っていた。スマートフォンの操作があまり得意でないのは年を取り出したからか。ともかくメールを送信することで彼と落ち合うのだ。
「なんだか、心配だからよ」
「どこが?」
「ねぇジルベール。あなた、普段はどうしてるの」
「金ならある。それに最近は割りのいいバイトも見つけたんだから」
「これ?」
まさか……と思い詰問するも、にこっと笑ってかわされる。「違うよ。もうちょっとマトモだ」そう言って少年は酒場で音楽を聴かせていると白状した。曰く御坊っちゃんの彼は楽器を弾くことができるらしい。ちょっとした小遣い稼ぎだと言った。
「銀行口座に貯金があるからそんなに困ってない。本当に――これでも結構稼いでたからね」
ジルベールの顔の良さは女優である母親譲りのものだ。彼もまたほんの少し前までは演者の道を歩んでいた。
「それ、本当に全部……?」
「なんだよ、僕の口座だよ?」
疑ってんの? という目が向けられる。「えぇ、少しはね……」と心の中で答えた。だって、おかしいじゃないの。いくら子役として稼いでいたからといって湯水のように使える金銭が口座に……?
「ジルベール、あなた……元の残高……」
ただの年増のパトロンが出過ぎた真似をしている。知っている。だが、少年は世間知らずなのだ。それが、あまりに過ぎる。
「僕の……金だよ………」
私の言いたいことが徐々に分かってきたのだろう。否、もしかすると初めから分かっていたのかもしれない。「両親が残すわけない……」彼は力なく呟いた。
「ファニー……」
ジルベールは項垂れた。首をがくりと折った拍子に襟足を長く伸ばした髪が頬の横で、はらりと揺れている。
薔薇色の唇が弱々しく私の名前を呼び、細っこい腕が差し出された。少年の手の甲が乱暴にベッドを叩く。
「話したいことは……? それだけ? だったら早くカネを頂戴。今夜の分だ」
短く切ったのだと言った前髪のせいか、青い瞳がよく見えた。どろりとした眼差しで睨め付けられる。
「プライベートには干渉しない。その約束は破らないでくれ。僕は、別にあなた一人がいなくなったって困りやしないんだから」
ジルベールは我儘だった。
生まれながらにして女性的な美を持つ彼を、ファニーはどうにか世話してやりたいと考えていた。
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