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裕福な家庭で何不自由なく育ち、そのくせただの初恋で身を滅ぼした。それがジルベールだった。
彼らの罪状は『対児童淫行法』と言い、その法律のもと罰せられることとなった。
警察はジルベール少年に対し、相手の成人女性が著しく品位を欠いたとし、マスメディアは近年最大のスキャンダルであると書き立てた。
(確か……まだ二十歳そこそこの娼婦だったと記憶している。)
二人がどのように始まったかなどの詳細をファニーは知らない。だが、自らの体を売る女と英国内外でも著名な女優の息子だ。格好の餌食になるほかなかった。斯く言う自分もまた、野次馬根性で興味を持っていた人間のうちの一人だ。それほどまでに大きな事件だったのだ。
その少年と、今度は自分が交流するとは思ってもみなかったが……
「ねぇ、ジルベール」
だらっと伸ばされていた手を取り、「大丈夫だ」と握ってやりたい。そんな気にさせられる。子を持たないファニーはなおのことだ。加えてジルベールは弱い。親にも恋人にも見放されたと言った彼を……私が………
ファニーは金銭を渡す代わりに手を差し出した。可能な限り優しく言う。
「なに」
ところが彼女の優しさは少しも届いていないらしい。少年は彼の地声よりずっと低い声を出した。
「どうしてそんな瞳で見るの。なんで」
青い瞳の奥がどろついている。著名な画家に描かれたような顔が急速にのっぺりとしたものになる。ファニーは怖気づいた。なんで、どうして……?
「なに考えてんの。余計なこと?」
動揺と戸惑いを隠せずにいると少年が手を伸ばす。私の手首は呆気なく捕まった。ぐっと腕を引かれる。同時にジルベールが今度は仰向けになった。
黄金色の髪が乱れてシーツの上に広がった。わずかに開く薄い唇が息を吐く。互いの顔が逆さに映って見える。
少年は屹立することも、まだ知らずにいる。そんな純粋無垢な表情をしてみせた。
「いーい? もう帰るよ……?」
きっと彼は私に「まだダメ」と言わせたいのだ。
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