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「意地の悪い女性だね。ファニー」
ジルベールの口唇が歪む。どうやら笑って、おまけに泣いているらしい。その証に赤らんだまなじりが下がっている。
「……プロポーズ、したんです。振られたけど」
十四の男の子からは想像もできない単語が飛び出したが、ファニーは大人しく彼の話に耳を傾けることにした。「ダサいよね」と、顔立ちにそぐわない砕けた物言いをする。腕を組み、時おり目を伏せるも、短くなった前髪では表情を上手く隠してくれないようだ。
「結婚したかったの?」
「……………うん……勿論ちゃんと知ってたよ。もう少し経ってからだって。でも、あの人ってば本気じゃなかったって言うか――分っかんないなあ! もう……いいや」
声が上擦ったり、頭を振ったり……彼は無理に明るく振る舞った。その度に光の粒のような涙が飛び散っている。
「結局、僕の言うことなんて何も聞いてくれないんだ。非道いよね」
最後に少年は鼻をずぴっと吸って、緩くなったTシャツの襟で目元を擦った。
「つまらない身の上話だ、そうでしょう? ファニー?」
おそらく、この子はまだ立ち直れていない。そうだろう。十三歳で初恋も、キスもセックスも覚えたという。聞けば結婚は駆け落ち同然で申し込んだというではないかッ!
「ひとつ、聞いてもいいかしら……?」
「なに?」
「どうして彼女だったの?」
「言わなくちゃダメ……?」
だって、ただの娼婦でしょう……?
聞けば聞くほど興味深い。ファニーはそう思った。想像力と興味が激しく駆り立てられる。
「聞きたいわ。ジルベール」
「すっごく可愛い人なんだ」
彼がへにゃりと笑う。返答に窮した様子が痛々しい。あぁ、まだ過去形では話せないの……?
品があって、教養もあって、その人以上に美人な人もきっといたに違いない。実際にそういう女の子たちをたくさん見てきたのだと言った。だが、そんなものはただの飾りに過ぎなかった。ショウビズの女の子たちには興味もないと……
「僕の周りには一人もいなくて、何をどうしたって敵わなかった。手も足も出ない……けど……喉から手が出るほど欲しかったんです」
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