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少年の瞳は熱を帯びている。
「会ってみないと……わからないよ」
ジルベールは髪を掻き上げ、頭痛がするといったように額に手を当てる。「吐き気も酷い……」と呟いた。
「水を……」
「さっき飲んだ」
「少し眠る?」
「いいや。――帰る」
私が「顔色が悪いわ……」と言うと、「色はもともと白いんだ」と返される。
「いいです。ご婦人、ありがとう」
妙に改まった様子の彼は「やっぱり……今日は金はいいや」と言った。本当に帰るつもりらしい。金も貰わず……?
目の動きで「財布は出さないで」と制されたファニーは両の手を膝の上に置いた。
「………また来てくれるかしら……」
「お酒、ぬるくなっちゃいましたね」
二人は同時に全く別の言葉を発したが、次の「そうだ」という肯定だけは重なった。
「また、何かあったら」
「待って。送るわ、ジルベール」
彼は金色の睫毛をまだ僅かに濡らしながら、よそ行きの笑みを作る。その後を弾かれるようにして追った。
「いいえ、大丈夫です。お気遣いなく……この後、またバイトがあるんです。割りのいいやつね。じゃあ」
しかし、ジルベールは我儘で、そのうえ少しばかり頑なであるらしい。伸ばした指先を「気を悪くしないで?」だなんて、するりとかわされる。
迷うことなく部屋のドアを開け、さっさと出て行ってしまう。自分勝手だこと! ――ところが、彼はファニーが腹立たしく思ったことも見抜いているようで、「あぁ」と再び顔を覗かせる。
「今度は、ちゃんと埋め合わせをさせてください」
最後にそんなことを言ってきた。
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