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揶揄って面白いのかしら……
客人が出て行ってしまったホテルの部屋に一人で残されてしまった。仕方なく悪態をつく。
ジルベールは夢のような人だ。確かに実在しているはずなのだが、どうにも現実味を帯びていない。それが彼が纏う雰囲気なのだろうか?
役者という職のせいか……? 生活感を感じられずにいる。……いや、勘当されたと聞かされたせいかもしれない。
脳内は少年のことだけで埋めつくされてしまった。
どうしてなのだろう? 決して誇張するわけでなく、文句のつけようもないほどの容姿に恵まれ……きっと頭も切れるはずだ。そんな彼が、なぜ、元恋人のような真似を?
正直なところ、羨ましくて堪らなかった。
私は決して器量の良い女ではない。容姿だってそうだ。顔はそばかすだらけで、口も大きい。顔は年々丸くなるばかりで、輪郭に肉がついてきた。
唇だって、品よくない。
これから先、目は黄ばみはじめるに決まっている。ジルベールの白眼は、青白いままだ。
ジルベールが好きだ。
あの美しい少年が堪らなく眩しい。
きっと私が不器量だから固執するんだわ……
ファニーは長年揶揄われ続けていた自身の縮れ毛を弄んだ――。
生まれつき細かなカールばかりの髪だった。色は金色になりきれない茶髪といったところか。赤ん坊の頃は、もしかすると天使のようだったかもしれない。
だが、思春期になると、ポニーテールに引っ詰めた髪はいつも頭頂部が膨らんでいた。加えて中肉中背で特に太ってはいなかったが、背丈の割に足が長いわけでもなかった。その時点で痩せて、尚且つ「綺麗になる」ということには無縁なのだと感じていた。
それは彼女が十六歳になっても変わらなかった。
ファニーは相変わらず自分に自信を持てずにいたのに対し、友人たちは恋人をつくり、ときに恋に敗れ……いつも彼女らを追う異性に目を向けていた。
今も恋を経験をできずにいる。
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