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Material Boy-マテリアル・ボーイ-(番外編①)
厭な男だった。彼の話だ。少年は、真白い肌に青い瞳を持っていた。
ベッドの上で葩を綴ったように紅咲いた唇が不敵な笑みを浮かべている。
「髪を切ったの?」
「そうだよ。前髪だけね」
「なぜ?」
女は慎重になって問いただした。おかしな話だ、この男に金と自らの時間をくれやっているのは私だというのに……いや。ややあって少し思い直す。まだ「少年」と呼ぶべきか。
「気に入らないの?」
陽の光が海に差し込んだきらめきを持つ金髪がこの夜には不釣り合いだ。前髪だけ綺麗に切り揃えられている。それが、どうしても……
「違うわ。違う……けど……」
ファニー・デイビスは懸命に首を振った。その後に息を整え、こう言った。
「あなた、御坊っちゃんみたいで……」
「うん。間違ってないでしょ」
年甲斐もなく狼狽える私に彼は平然と言って退けた。とろけるような笑い顔だ。まるで少女のように思えた。
「僕は御坊っちゃんだよ。世間知らずで、何も知らない……頼りない棒切れみたいな男だ」
そう言うや否や少年はしなやかな動きで距離を詰めてきた。ベッドが軋み、華奢な腕が伸びてくる。彼は自分がどれほど愚かでちっぽけな男であるのかをよく理解していたが、それを改めようとはしなかった。
私が右手で摘んでいた苺を食み、小さな白い歯で穴を開ける。「自分じゃ苺ひとつ食べられない」と綺麗にへただけを残して咀嚼する。
金銭的なことを言っているのだろうか? それとも……?
「お酒を飲めばいいのに」
男にしては細い喉を鳴らして苺を飲み込んだ彼は私に果実酒を勧める。好きに楽しんでいいのだと少年は言った。「そのための時間でしょ?」とも。
「あなたはダメよ。ジルベール」
「わかってるよ」
私は彼を買っている。いや……見返りは何も求めない。少しだけ互いの時間を共有しているのだ。寂しい独り身の女のために少年は時おりこうして話し相手になってくれているのだ。
というのは保身だろうか……?
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