真夜中の攻防戦

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彼女がナイフを僕から離して、声の方に向き直る気配がした。 僕もゆっくりと振り返る。 身体の力が抜けそうになるから、ゆっくりとしか動けなかったんだ。 本当なら、今のうちに取り押さえて、相手の動きを封じるべきなんだろうけど、非力な僕では押さえても、簡単に振り切って逃げられるだろう。 「観念してください。残っているのは、あなた一人ですよ、酒見(サカミ)先生」 「あら、分かってたの?バレないと思ってたんだけどなぁ」 「スタッフの名前と顔は全て把握していますから。まぁ、旦那様があのような行動を取るのは、少しだけ予想外でしたけど、多分、自身の安全よりも他人の安全を優先するだろうなとは思っていましたしね」 うぅ…そんなことまで読まれてたなんて…。 それよりも先生? 先生ってどういうこと? 「クロッカス、さっき先生って…」 「ごめんなさいね。執事実習で、男性主人の場合は、こういうカリキュラムが組まれるの。現実的に考えれば、執事を雇うのは家長の男性が多いから。驚かせちゃったかしら?」 「驚きすぎて理解が追いつきません…」 一気に脱力して、その場に座り込みそうになったけど、そんなことをしてしまうと、明らかにクロッカスが心配するので、壁に手を付いて堪えた。
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