弓削譲之丞

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幼い頃から常に弓削家の自覚を持てと言われ続けた。 何か大層なことを言うんだなと思っていたら、大層な家だったから納得した。 祖父である弓削 龍之介に溺愛された俺は知らなかったが、俺以外の孫、自分の息子や娘には冷たく厳しかったらしい。 祖母も祖父の奴隷で、婚外子の面倒を何から何まで引き受け、精神的に疲弊し、何かを買うのに金がいることが分からなくなって、硬貨は光るメンコと言うほどだった。 弓削家は歪んでいる。 だから高校は家から遠く離れた寮のある学校にした。 入学前にたくさん少年漫画を読んで、当たり障りない人物像を造り上げ、何度も自分に馴染ませた。 何事もそれなりで生活することを決めた。 弓削家の人間で、次期当主を期待されている俺は、幼児期から勉強と運動の毎日で、人並み以上にできるが、何の達成感もなかった。 そして高校生になって、人生で初めての友達ができた。 英井 伊月。 どこまでもお人好しで、すぐに貧乏くじを引くタイプなのに、やたらと人に好かれる。 俺は最初は接し方に悩んだ。 伊月に合わせてレベルを下げないといけないと気付いたから。 それでも引き込まれた。 その天真爛漫さは打算でも何でもない、ありのままだと思うと羨ましかった。
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