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「誰かと待ち合わせでここに?」
「あー、はい。もう三時間も待ってるんですけど……」
「え!? 三時間!?」
渡先輩はあんぐりと口を開けた。
「友達と、連絡がつかなくて……」
“彼氏”と言うのはなんとなく憚れた。
「そう……だったんですね。じゃあこれからも待つってことですよね?」
私はこくりと頷く。
とはいっても、もう私の体は本気で凍死寸前だ。
すると渡先輩は自分がつけていたマフラーを外し、なんと、私の首に巻いてくれたのだ。
「お姉さん、とりあえずこれ、着けてください! あげますから」
渡先輩は脳みそが足りない私と違って、しっかりと寒さ対策をしていた。冬用のあったかそうなコートを着て、手袋を嵌め、ブーツを履いている。
「えっ!?」
「お姉さん、とっても寒そうで見てらんないです!」
私の方が年下なんだけどな、と思いながらも
渡先輩のマフラーは気が狂うほど凍えた私の身体に、一時の安らぎを与えてくれた。
「いいんですか……? このマフラー」
「大丈夫ですよ。俺、ここから帰るだけなんで。家もすぐ近くだし!」
渡先輩は爽やかな笑顔でそんなことを言う。
でも私は知っているのだ。ここから地元までは、電車だけで一時間半もかかることを。
「ありがとうございます……」
私は、先輩のあまりの優しさに泣きそうになってしまった。なんて心の広い人なんだろう。
たぶん、私はこのとき、先輩に恋に落ちた。
しかし、先輩のかっこよさはこれだけに留まらなかった。
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