私が先輩に惚れるまで

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「つーか、マフラーだけじゃ絶対寒いですよね。えーっと、とりあえず手袋っ!」 渡先輩は自分の手袋を外すと、私の手に嵌めようとする。 「えっ!?」 「男物だから大きいかもだけど、我慢してくださいね。よし、これでオッケー! あとは――」 渡先輩は、呆然とする私をよそに、コートのポケットに手を突っ込む。 「あっ、カイロあった! あー……でも冷えてる」 先輩のポケットから、カイロが出てきた。しかしどうやら温まっていないらしい。 「これじゃ、寒さしのぎにならないな」 渡先輩は顔を顰めた。 「あっ! そうだ!」 ――と、次の瞬間、先輩はコートのボタンを外すと、中に着ていたセーターを捲った。 「へっ!?」 いきなり服を脱ぎだした先輩に、私は呆気にとられた。 セーターの下に着ていたシャツのちょうど腹部分に、カイロが貼られていたのだ。 「俺、そういえば貼るカイロつけてました! お姉さんにこれ、あげます!」 ぽかんとマヌケ顔の私。腹のカイロをベリベリと剥がすイケメン。 「これならずっとあったかいですから! ねっ?」 でかしたぞ、俺! みたいな自信満々の顔をして、あつあつのカイロを私に差し出す渡先輩に 私は、ぷぷっ、と吹き出してしまった。 「あははっ、ははっ」 先輩の親切心を分かっていても、私は笑いを止められなかった。 「えっ、俺、なんか変なこと……あーっ!! よく考えれば……知らない男の腹に貼っていたカイロなんて、イヤですよね? すいません、気が付かなくて」 私は暫くそのまま笑い続けた。 先輩は私の突然の爆笑に、どう反応したらいいのか分からなかったみたいで、かなり困っていた。 可愛かったのだ。先輩が。 見知らぬ(馬鹿な)薄着女のために、自分の腹に貼っていたカイロまでプレゼントしようとする、先輩の一生懸命さが、たまらなく嬉しくて、たまらなく可愛かった。 結局、先輩の熱意に根負けして、マフラーと手袋は借りることにした。カイロは、丁重にお断りした。 ちなみに。 身も心もイケメンな先輩にまんまと惚れた私は、その日限りで彼氏とお別れした。 (約束をすっぽかした彼氏は、私が寒さで凍える中、家のソファーで爆睡していたらしい)
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