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その次の週、私は先輩に声をかけた。
先輩はびっくりしていた。それもそうだ。
都内の駅で偶然出会った女が、同じ学校にいたのだから。
あのときはありがとうございました、と丁重にお礼を告げると
「凍死しなくてよかったよ」
と、軽く笑ってくれた。
相変わらずの好青年ぶりに、私はきゅんとしてしまった。
マフラーと手袋は返さなくていいよ、と言われたが、結局返した。
先輩のものだから、という理由と、また喋る口実が欲しかったから。
それから半年、私は片思いを続けている。
そのことを友達の沙奈に告げると、唖然としていた。
それまで渡先輩に全く興味のなかった私がいきなり惚れた、なんて言うから。
「しっかし不憫ね~、あんたも」
「え? それって、先輩に人気があるから、両想いになれる確率が低いってこと?」
そんなことは重々承知だ。それでも好きになってしまったものは仕方がない。
「いや~、まあ、それもあるけど……それだけじゃないっていうか……」
沙奈の歯切れの悪い返事に、私は「どういうこと?」と聞き返した。
「渡先輩の歴代の彼女は、全部先輩が振られて破局してるの」
「えっ!? 先輩が振られるの!?」
そうよ、と沙奈が頷いた。
「だから、もしアンタが彼女になれたとしても、必ず破局することになるだろうね。しかもアンタが別れを切り出す形で……」
一体どういうことだ?
あの完璧王子のどこに、振られる要素があるというのだ?
「……なんで? ねぇ、なんで先輩が振られるの?」
「それは……私の口からは、言えない」
沙奈は辛そうに顔を歪めながら、そっぽを向いてしまった。
そのときはまだ――知らなかった。
必ず別れることになる、と言い切った、沙奈の複雑な心境と
これから、どんどん先輩に近付けなくなるという悲しみと苦しみに。
“惚れてしまった弱み”でも覆せない、
私に立ちふさがる大きな壁があったのだ。
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