私が強力な鼻を手に入れるまで

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季節は、夏。 夏の大敵は、汗だ。 朝、丁寧に時間をかけてヘアセットしても、学校についたら汗でベトベト。せっかくのおめかしが台無しだ。 そして日焼け。 私自身、日焼け止めはこまめに塗るようにしているが、それでもどうしても焼けてしまう。将来のシミシワ対策を考えると、夏は日焼けが億劫だ。 そして――(にお)い。 これは、汗に通じるものがあるが、まず、教室全体がじとっと汗の臭いが充満する。生徒も人間だ。汗をかくのはしょうがないのかもしれないが、いくら換気をしたからといって、冷房がないうちの高校にとっては、焼け石に水だ。 「結局、昨日は渡先輩に声かけられたの?」 放課後、沙奈と駅前での帰り道を二人で並んで歩く。道の脇にある植えられた木から、ミンミンと蝉が小気味よく鳴いている。 「ううん……。駄目、だった。やっぱり近付けなかった」 「そっか、まぁ、しょうがないよ……。先輩に近づけないのは、あんたのせいじゃない」 「でもこれじゃ……先輩と、夏のあいだは話せないってこと? それは……辛いよ」 「秋冬になれば、また――」 「それじゃ遅いって!」 私は悔しさから目に涙を浮かべていた。 「秋冬になれば……他の女の子もアタックし始めるんだもん。やっぱり誰も攻めない夏がチャンスなんだって」 「でも……夏は無理じゃない」 沙奈が悟ったように言った。 「無理じゃない! 絶対、何とかしてみせるもん!」 私は、自分の不甲斐なさと、その虚しさから、沙奈を置いてきぼりにして駅まで走った。 (悔しい――絶対、何とかしてみせる!!) 絶対に、夏の間に、先輩にアタックして両思いになってみせる、と私は心に誓った。 ――もしかしたら、そんな固く決意をした私に、運命は味方をしてくれたのかもしれない。
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