C100009

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C100009

それは突然やってきた。 あまりに急すぎて、何が起こったのかうまく理解できなかった。 年度末までに工場が閉鎖される――決まってしまえば、物事はとんとん拍子に進んでいった。外注の大半は解雇され、プロパーに対しても希望退職が募られた。 兆候はいくらでもあった。本社がうまくいっていないという話は、よく耳にしていた。株価は低迷を続けていたし、会社の名前がニュースに乗るのは、赤字決済、粉飾、横領......とにかく悪い話ばかりだった。 今思えば、それ以前の話だったのだ。工場で働く人々は、誰ひとりとして自分達が何をしているのか知らなかった。だから自分たちの仕事ぶりを、本当の意味で評価することは、誰にもできなかった。 果たして我々は前進しているのか、それとも後退しているのか......? それを判断するのは自分ではなく、もっと他の、偉い人たちだと思い込んでいた。既に沈みかけている船に乗り込んでいるという事実に気付かなかった。 否、気付いていたのだが、認めることができなかった。 私たちは、なんとなく工場が永遠に存続すると思っていた。これだけの規模のインフラストラクチャーが無くなるということを、うまくイメージできなかったのだ。おそらく戦艦大和の乗組員も、タイタニック号の不幸な乗客たちも、同じような気持ちだったのだろう。いざ、沈むという瞬間にも、夢の中にいるような気分だったのではないか。 だが、現実は容赦なく工場を切り裂いた。アジアを支配するいくつかのコングロマリットが、ローストビーフを切り分けるように会社をばらばらに解体し、美味しい部分だけを攫っていった。 やがて工場は解体され、跡形もなく消え去った。 残ったのは、広大な荒れ地だけだ。
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