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「お前、図体がでかいわりにノロイんだな。競走したら俺が余裕で勝っちまうぞ」
一匹のねずみがちょろちょろと歩きながら言った。その隣を、何かがゆったりと移動している。
「そうさ」と何かが答えた。
「たしかに私は歩くのが遅い。しかしね、のんびりとではあるけれど、世界中を旅してきたんだよ」
ねずみは目を輝かせ、言った。
「世界中を? すごいな!」
「実は、前にもここに来たことがあるんだ」
何かが続けた。ねずみは彼に歩調を合せた。
「おかの上に家が集っているのを見つけてね。そのあいだを、人間がとことこ動き回っていた」
そう語る何かの姿を、ねずみはまじまじと見た。彼の服は太陽の光を跳ね返していた。きらきらしていて、眩しい。ねずみは目をしばたたかせた。
「人間たちは、小川の近くに村を営んでいたんだ。せっせと稲を刈っては、村の倉にしまっていた。君たちの御先祖さまに横取りされないよう、倉の床を高くつくってあったよ」
「ふうん」
ひげをぴくぴく動かして、ねずみが訊ねた。
「で、それって何日くらい前のことだ?」
「ざっと二千年前のことさ」
何かが答えた。それがどれほど昔のことなのか、ねずみにはよくわからなかった。
「可愛いことをするものだと思ったけれどね。その子孫たちが、見ないうちにこれほど立派な街を築いていたんだから。私も驚いたよ」
二人は歩きながら左を見た。青空の下に高層ビルが悠々と建ち並んでいる。ねずみは自慢げに言った。
「俺、あのビルの下に住んでるんだ。案内してやろうか」
「いや、遠慮するよ。また地球をひとめぐりしてこなければ」
何かが、すうっと流れてゆく。
「二千年後の日本人はどんな家に住んでいるのか。次に来るときが待ち遠しいね」
ねずみはそばにあったうてなに登り、彼を見送った。
「あばよ! 深層海流」
「さようなら。ねずみさん」
海がちゃぷんと音を立てた。
ねずみはきらきら揺れる波間を眺めたあと、繋船柱から飛び降りた。そして、港をちょこまかと駈けていった。
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