桜吹雪と白猫と

2/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 白猫は慌てたようだった。畳の(へり)から、一歩踏み出そうとした途端。 「痛……っ!」  爪先にビリッとした衝撃が走り、慌てた。後ずさろうとしてバランスを崩し、畳の上に派手に尻餅を付く。左足の指がピリピリ痺れている。やや強めの静電気に感電したみたいだ。 「勝手ニャ事されると困るニャア」  すぐ側まで寄って来ると、白猫は非難がましく琥珀色の瞳を細めた。 「な……何なんだよ、これ!」 「この心象はキミのものではニャイニャ。他人が介在してはイケニャイのニャ」 「あー、もうっ!」  ニャーニャーうるさい。よく分からないが、この巨大桜は……映像ってことなのか? 「分かったよ、部屋の外に行かなきゃいーんだろっ」 「分かればいいニャ」  白猫は、左足を揉みほぐしている僕を疑わし気に睨上げていたが、小さく溜め息を吐くとクルリ踵を返した。 「次、急ぐニャ」 「はいはい」  何だか分からないけど、もうここに居てはいけないらしい。痺れも薄らいだことだし、仕方ない。付いていくか……。  ――ガラガラッ  視界の端で、何か動く気配がした。振り向くと――。  桜が散り続けている風景が、バラバラと崩れ落ちていく。まるで接着していないジグソーパズルを縦に持ち上げると、ピースが千切れて絵柄が壊れていくみたいに。  ――『心象』  白猫の言葉が甦った。  桜吹雪が消えた縁側の向こうに、奥行きの知れない濃い闇が広がっている。室内は明るいのに、僕の姿が映らないところをみると、ガラスは入っていないらしい。電流に懲りた僕は、諦めて白猫の後を追った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!