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白猫は慌てたようだった。畳の縁から、一歩踏み出そうとした途端。
「痛……っ!」
爪先にビリッとした衝撃が走り、慌てた。後ずさろうとしてバランスを崩し、畳の上に派手に尻餅を付く。左足の指がピリピリ痺れている。やや強めの静電気に感電したみたいだ。
「勝手ニャ事されると困るニャア」
すぐ側まで寄って来ると、白猫は非難がましく琥珀色の瞳を細めた。
「な……何なんだよ、これ!」
「この心象はキミのものではニャイニャ。他人が介在してはイケニャイのニャ」
「あー、もうっ!」
ニャーニャーうるさい。よく分からないが、この巨大桜は……映像ってことなのか?
「分かったよ、部屋の外に行かなきゃいーんだろっ」
「分かればいいニャ」
白猫は、左足を揉みほぐしている僕を疑わし気に睨上げていたが、小さく溜め息を吐くとクルリ踵を返した。
「次、急ぐニャ」
「はいはい」
何だか分からないけど、もうここに居てはいけないらしい。痺れも薄らいだことだし、仕方ない。付いていくか……。
――ガラガラッ
視界の端で、何か動く気配がした。振り向くと――。
桜が散り続けている風景が、バラバラと崩れ落ちていく。まるで接着していないジグソーパズルを縦に持ち上げると、ピースが千切れて絵柄が壊れていくみたいに。
――『心象』
白猫の言葉が甦った。
桜吹雪が消えた縁側の向こうに、奥行きの知れない濃い闇が広がっている。室内は明るいのに、僕の姿が映らないところをみると、ガラスは入っていないらしい。電流に懲りた僕は、諦めて白猫の後を追った。
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