フローリスト

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「いい?おばさん、花は水切りって言って水の中に茎をつけてカットするの。これしないと花しおれちゃうから気をつけて」 藤中さんは私のことをおばさんと呼ぶが、仕事はきっちり教えてくれるので我慢することにした。 「でも花の扱いも知らずによくこのバイト選んだよね。おばさんだったら惣菜売り場の方が似合ってるんじゃないの?」 どこまでも失礼な物言いだけど、一応先輩。私はぐっとこらえた。 「今までアルバイトとか考えたことなかったんだけど、黒川さんに誘われたの。だから未経験だけどやってみようと思って。」 そう言うと、藤中さんはあからさまに嫌そうな顔をした。 「おばさんて既婚で年上でしょ。まかり間違っても黒川さんに相手にしてもらえることなんてないんだから。期待しないでよね。」 「もしかして、黒川さんのこと好きなの?」 「そうだけど、この仕事はじめたのも黒川さんに近づきたくてだし。」 今時の若い子って行動力がある。 私は純粋に感心した。 「大丈夫だよ。私、かなり年上だと思うし、地味だから。ライバル候補にもならないから、そんなに警戒しないで。同じバイト同士仲良くできたら嬉しいんだけどな。」 私が言葉を選んでしゃべると、藤中さんは私の瞳をじっと見つめてきた。 「今の言葉、嘘じゃないよね?」 「誓って!私は仕事がしたくてここにきたんだよ」 「・・・」 藤中さんは何か考えるようにしばらく固まっていたけど、 急に笑顔になった。 「そっか・・・そうだったんだ。私てっきり。ごめんね、なんか早とちりで嫌な態度とってさ。私こうみえて3年間片思いしてるから焦れてて、ごめんね、おばさんなんて言って。」 そういうと綺麗な笑顔を向けてくれた。 「3年間も!?それはすごいね」 「でしょ?我ながら不毛なことしてるって思うよ。でも好きなんだもん。仕方ないよね。」 「これだけ行動力あるのに告白はしなかったの?」 「したよ!何度もね。全滅だったけど」 曰く、彼女が告白しても恋愛に興味がないとあしらわれてしまうそうなのだ。 藤中さんは黒川さんが3年前この店で働き始めたときに一目惚れして、 それ以来ずっと片思いを続けているらしい。
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