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「どうですか?仕事、やっていけそう?」
私が会計を終えたタイミングで黒川さんが話しかけてきた。
「楽しい!久々だけどやっぱり労働って素敵だね!生きてるって感じがする」
「生きてる・・・か。新婚生活ではそう思わなかったんですか?」
黒川さんは急につっこんだ質問をしてきた。
私は少し戸惑ったけど、隠す必要もないかと思い直して、答えた。
「実はね、仮面夫婦ってやつなの、もう2年もすれ違い生活だから、ずっと何かやりたかったんだ。黒川さんにそこから助け出してもらったから、本当に感謝しているの。」
黒川さんの手がピクリと動く。
「仮面夫婦?」
「そうそう、一緒の家に住んでるけど、すれ違ってばかりで、会話はいってらっしゃいと、夕飯は食べる?だけなの。一年目はよかったなあ。結構うまくいってたのに、急にね。」
暗くならないように笑って話す。
でもうまく出来てなかったみたい。
黒川さんは陳列棚に歩いて行くと、ナデシコの鉢植えを持って戻ってきた。
「寂しいときは、植物を育てるといいよ・・・元気でる」
驚いた。まだ出会ってすこししかたっていないバイトにどうしてここまで優しくしてくれるのかと。
「どうして?」
「言ったでしょ、おれの仕事を気に入ってくれたから、きっかけはそれだけど、なんかね、優さんには元気でいてほしくて。」
私は渡されたナデシコの鉢植えを見る。
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