フローリスト

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「きれい」 何かを見て心からそう思ったことは久しぶりだった。 2年前に、突然太一の仕事が忙しくなり、すれ違いの不満ももらせず我慢してきたからか、いつの間にか何かに心打たれたり、感動することがなくなっていたのだ。 私がナデシコにみとれている姿をみて、黒川さんは優しく微笑み、 「包んであげるからかしてね」 そう言って私から鉢植えをそっとうけとる。 その時だ。黒川さんは私の手をそっと包んですべるように鉢に手を写した。 (えっ・・・また手が・・・) 胸が苦しい。人の温もりに触れたのが久しぶりすぎて、私の感覚が鋭敏になっているのだろうか。 顔がかっかと赤くなり、鼓動も早鐘を打っている。 黒川さんはそんな私の様子を見て、「かわいい」と呟くと、作業台に移動して行った。
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